国立公園内の地熱発電の推進に関して、環境省が規制緩和をしたことが報道されている。現行の国立公園の公園計画をもとに、規制を緩和する内容には、きわめて違和感をおぼえる。それは、現行の公園計画が、風景の保全を重視し、かつ土地所有者の意向に左右されてつくられてきた経緯を考えると、規制緩和された地域に生態系保護の観点から重要な地域がとりこぼされている可能性がきわめて高いからである。
わが国の国立公園は、アメリカやオーストラリアとは異なる地域制という制度を採用してきた。私有地を含んでいても公園の指定をできるが、土地所有者の同意が得られなければ重要な資源があっても規制は弱くなってしまう。国立公園内の国有地は約6割、公有地が約1割で残りは私有地であるが、国有地も国立公園専用の土地ではなく、その大半は国有林として林野庁に管理されている。環境省が直接所管する土地は全体の1%にも満たない。
http://www.env.go.jp/park/welcome/index.html
自然公園内の地熱発電については、昭和47年に既設の6箇所以外の調査工事や開発は景観及び風致維持上支障があると認められる地域では推進しないことが、通知された。地熱エネルギーへの期待の高まりに対して、自然環境保全審議会は、昭和54年に、地熱開発による風致景観への影響が大であるとし、「国立、国定公園内の自然環境保全上重要な地域を避けることを基本とすべき」とした。平成6年には、(当時)霧島屋久国立公園内の発電所の設置予定にあたって、普通地域内においては、風景の保護上の支障の有無について個別に検討するとした通知がだされ、大霧地熱発電所が普通地域内に建設された。
これまでの普通地域内への設置と斜め堀りを認める方針を、自然エネルギーへの期待の高まりを背景に、環境省は第2種、第3種特別地域においても、特定の条件を満たせば垂直掘削と発電施設の設置を認めるように緩和した。候補地となっているのは、阿寒国立公園阿寒地域、大雪山国立公園白水沢地域、十和田八幡平国立公園菰ノ森地域、栗駒国定公園木地山・下の岱地域および小安地域、磐梯朝日国立公園磐梯地域である。
地熱発電所の建設や、地熱発電による影響について、自然景観や温泉資源に対する懸念も指摘されている。今回の緩和において懸念されるのは、自然公園内の第2種特別地域、第3種特別地域、普通地域は、自然景観を保護する観点から価値が低く、開発の影響も少ないと誤解されている点である。先述したように、現行の公園計画は風景の保護を主要な目的としており、またその地種区分(特別保護地区や特別地域の区分)には土地所有者の意向が強く反映されている。国有地と言っても、林野庁が所管する国有林が大半を占めるため、乱暴に言うと、林野庁が木材生産のために不要と考えた高山帯などが特別保護地区や第1種特別地域に指定された経緯がある。自然生態系保護や利用体験保護の観点から計画が立てられていないことの問題点は、早くから指摘されてきた。支笏洞爺国立公園の事例ではあるが、下記の論文で分析を行い、現行の公園計画の問題点を指摘している。現行の公園計画は、実は自然保護上かなり問題をはらんでいるものなのだ。
愛甲 哲也, 富所 康子, "支笏洞爺国立公園における公園計画と国有林森林計画の関係について": ランドスケープ研究, Vol. 73 No. 5, 505-508, (2010) .
http://www.jstage.jst.go.jp/article/jila/73/5/73_505/_article/-char/ja/
また、現行の特別保護地区と第1種特別地域が自然環境保全上重要な地域をすべて網羅しているわけではない。これについては、環境省も2010年の生物多様性条約締約国会議にあわせて、生物多様性保全の観点から国立・国定公園の点検を行っており、その不十分さは認識しているはずである。
国立・国定公園総点検事業について
http://www.env.go.jp/park/topics/review.html
よって、現行の公園計画に立脚して、第2種特別地域、第3種特別地域、普通地域または公園外では、地熱発電所の建設や垂直掘削は可能だとするのは、時期尚早な判断であると考える。自然景観はいったん失われると、将来の世代に大きな禍根を残しかねない。地熱発電の自然環境への影響を十分に検討するとともに、自然生態系保全の観点から自然公園の公園計画をきちんと見直すべきである。
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